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東京高等裁判所 昭和63年(ネ)3231号 判決

控訴人 齋藤源一郎

〈ほか六名〉

右七名訴訟代理人弁護士 若山正彦

同 長嶋憲一

同 米津稜威雄

被控訴人 泉開発産業株式会社

右代表者代表取締役 北川文男

右訴訟代理人弁護士 藤井英男

同 藤井一男

同 関根和夫

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人らに対し、控訴人らが有する被控訴人経営の泉カントリー倶楽部の原判決添付会員権目録記載の各ゴルフ会員権につき、

1  各控訴人から、年齢満三五年以上にして泉カントリー倶楽部会員二名の紹介を受けた者に対する譲渡

2  各控訴人について相続が発生したときは、その各相続人のうちから選定した一名の者に対する承継

をそれぞれ承認する義務のあることを確認する。

三  訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

(控訴人らは、当審において、本件各請求の趣旨を右のとおりに補正した。)

第二事案の概要及び争点

本件は、被控訴人の経営する千葉県印旛郡印旛村大字吉田字姫宮所在のゴルフ場(一八ホール)の泉カントリー倶楽部(以下「本件クラブ」という。)に入会している控訴人らが、被控訴人に対し、被控訴人に控訴の趣旨第二項記載のとおりの承認義務のあることの確認を求めた事件である。

一  当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨により認められる事実

1  被控訴人は、昭和五二年八月一五日に住友不動産株式会社(以下「住友不動産」という。)の全額出資により、本件クラブの開発、運営のために設立された会社である(設立当時の商号は、光林台開発株式会社であり、その後株式会社泉カントリー倶楽部に変更され、さらに昭和五八年六月に現商号に変更された。)。そして、被控訴人は、住友不動産に対し用地の賃借権の取得、工事の管理及び会員の募集の各業務を委託した。本件クラブは、当初から預託金会員組織のゴルフクラブとして計画されたものであって、住友不動産は、昭和五三年一月から個人正会員の特別縁故募集(入会預り金三八〇万円)を開始した。しかし、この時点までの間には、被控訴人の委任に基づくクラブの運営機関である理事会は一度も開催されておらず、また、クラブの組織、運営のための会則も制定されていなかった。さらに同年一〇月からは、住友系企業を対象とする法人会員の募集も開始された。その際、住友不動産は、住友系企業各社に対し右会員募集の協力を依頼し、また、当時同社の代表取締役社長であった安藤太郎は、東京とその近郊及び総武線沿線の住友銀行及び住友信託銀行の各支店長に対し、会員の募集についての協力を依頼した。

2  控訴人齋藤は、当時有限会社ホテル赤羽荘の代表取締役社長であり、控訴人品川は、当時菅原輸機工業株式会社の代表取締役社長であったが、昭和五三年五月に、また、控訴人江島は、当時日電興産株式会社の保険部長であったが、昭和五三年三月に、いずれも入会預り金三八〇万円を支払って、それぞれ原判決添付会員権目録記載の各入会日に本件クラブの個人正会員となった。

3  その後昭和五四年五月七日に至り、被控訴人の委任に基づき、住友系企業各社から選出の理事(但し、その代理人を含む。)によって構成された本件クラブの第一回理事会が開催され、同クラブの会則(以下「本件会則」という。)が制定されたが、その会則には、同クラブの会員の資格の譲渡及び喪失に関して、次のとおりの規定が設けられた。

「第一〇条 正会員はその会員権を他に譲渡することが出来ない。ただし、法人正会員は理事会の承認を得て会社が別に定める名義書換料を会社に納入した場合、同一法人内に限りその資格を譲渡することができる。

2 会員権は相続できないものとする。

3 平日会員は倶楽部の斡旋によりその会員権を他に譲渡することができる。ただし、譲渡については、理事会の承認を必要とする。

4 前項により入会を承認された者は会社が別に定める名義書換料を会社に納入するものとし、その納入によりて効力を生ずるものとする。

第一一条 会員は次の場合その資格を失う。

1 退会

2 除名

3 死亡または法人正会員たる母体法人の解散」

4 ところで、被控訴人は、右第一回理事会において、前記の特別縁故募集によって入会した個人正会員のうちの希望者に対して、会員からの入会預り金三八〇万円に五〇万円を付加した代金で、会員権を買い上げる措置を実施することを決定し、そのころこれを実施した。

5 昭和五四年五月から個人正会員の通常募集(入会預り金六〇〇万円)が、また、同年六月から個人平日会員の募集(入会預り金二五〇万円)がそれぞれ開始された。

6 控訴人渡辺は、当時ワタナベ株式会社の代表取締役社長であり、控訴人保坂は、当時株式会社ユニ・エックの代表取締役社長であったが、いずれも昭和五四年九月ころに被控訴人に対し、入会預り金六〇〇万円を支払って、それぞれ原判決添付会員権目録記載の各入会日に本件クラブの個人正会員となり、また、控訴人猪狩は、当時株式会社猪狩工業所の代表取締役社長であり、控訴人井上は、当時有限会社マルイデンカの代表取締役社長であったが、いずれも昭和五四年八月から同年九月ころまでの間に被控訴人に対し入会預り金二五〇万円を支払って、それぞれ原判決添付会員権目録記載の各入会日に本件クラブの平日会員となった。

7 本件クラブは、昭和五四年九月五日から正式にゴルフ場の運営を開始した。

8 その後、被控訴人は、昭和五六年二月一〇日の理事会で、前記の特別縁故募集によって入会した個人正会員のうちの希望者について、会員からの入会預り金三八〇万円に一〇〇万円を付加した代金で、再度、会員権を買い上げる措置を実施することを決定し、そのころこれを実施した。

9 控訴人齋藤、同品川及び同江島は、いずれも本件会則が制定された後に実施された前記4及び8の会員権買上げの措置に応ぜず、現在に至るまでそれぞれの会員権を保有し、本件クラブの個人正会員として行動している。

二  争点

1  控訴人齋藤、同品川及び同江島について

右控訴人三名は、いずれも本件会則の制定前に、個人正会員の特別縁故募集に応じて本件クラブの個人正会員になったものであるところ、同人らに本件会則一〇条1項及び2項並びに一一条3項の規定の適用があるか否か、仮に本件会則の規定の適用がないとすれば、被控訴人には、控訴の趣旨第二項記載の承認義務があるか否かが争点である。そして、これらの争点に関する当事者双方の主張は、次のとおりである。

〔控訴人らの主張〕

(一) 一般に預託金会員組織のゴルフクラブにあっては、会員権の譲渡及び相続を禁止又は制限している事例は極めて限られているうえ、これを禁止又は制限するゴルフクラブでは、会員の募集時に会員権の譲渡及び相続を禁止又は制限する旨の周知徹底を図っている。そして、会員権は、財産的価値を有するものであって、取引界でも独立の財産として取引されているのであるから、入会契約の締結当時において、会員権の譲渡及び相続を禁止又は制限する旨の特約やその旨の会則が存在する場合とか、将来そのような会則が設けられる予定である旨の意思表示がなされた場合を除いては、会員権の譲渡及び相続を認めることが一般的な慣習となっている。したがって、入会契約の締結時に特に会員権の譲渡及び相続を禁止又は制限する旨の会則又は特約が存在しなかった本件のような場合には、会員権の譲渡及び相続を認めるべきである。

(二) 被控訴人は、本件会則の制定前においては、通常の預託金会員組織のゴルフクラブと同じく会員権の譲渡及び相続を認めることを前提条件として会員の募集を行った。

(1) 被控訴人が行った前記の個人正会員の特別縁故募集については、当初入会者が少なかったため、当時住友不動産の代表取締役社長であった安藤太郎は、白水会(住友系企業各社の社長会)及びその下部組織の総務部長会に出席して、会員募集の協力を依頼し、各社毎に募集の口数を割り当てた。また、前記のとおり東京とその近郊及び総武線沿線の住友銀行及び住友信託銀行の支店長を集めて会員募集の協力を依頼した。安藤太郎は、右各席上で「住友不動産が責任をもって立派なコースを造る。会員権の財産的価値も鷹之台カンツリー倶楽部並みにする。」と述べていた。住友各社では、その総務部長が中心となって入会希望者を募り、住友銀行及び住友信託銀行では、行員のほか、各支店長が取引先を中心に勧誘を行い、本件クラブは鷹之台カンツリー倶楽部に負けないコースになるし、会員権の値上がりも見込めるなどと説明して勧誘した。右個人正会員の特別縁故募集においては、募集パンフレットにも会員権の譲渡等の禁止又は制限を窺わせる表現はなく、一般的に会員権の譲渡等を認めるゴルフクラブの会員募集のパンフレットと全く異ならなかったうえ、当時の鷹之台カンツリー倶楽部の会員権相場(一四五〇万円)に比べて、本件クラブの会員権の募集価格が安いことをセールスポイントにしていた。

(2) 被控訴人は、前記のとおり昭和五四年五月七日の第一回理事会で、希望者については個人正会員権を四三〇万円の代金で買い上げるとの措置を決定し、これを実施したが、その理由としては、募集当時は会員権の譲渡等が禁止又は制限になるとは思わずに入会を勧めた経緯があるとの説明がなされた。また、被控訴人は、前記のとおり昭和五六年二月一〇日の理事会で、再度、希望者については個人正会員権を一口四八〇万円の代金で買い上げるとの措置を決定し、これを実施したが、右理事会でも、被控訴人の代表者である安藤太郎は、会員権について譲渡自由から譲渡禁止に変更したことは申し訳ないと陳謝し、会員に送付された通知書には、「住友ゴルフ場としての性格を貫くため個人会員権の譲渡禁止のやむなきに至りました」、「倶楽部の性格が当初会員募集時と基本的に変わったことでもありますので、」などとの記載がなされていた。

(3) 住友不動産は、会員権の購入について株式会社住友クレジットサービス(以下「住友クレジット」という。)の低利融資を斡旋していたが、住友クレジットは、その際会員権を融資の担保として取得した。そして、右担保の対象となるのは、預託金返還請求権ではなく、譲渡可能な会員権自体であるから、住友不動産は、会員権が譲渡可能であることを前提条件にして入会契約を締結したものである。

(4) 控訴人齋藤の長男康徳は、当時住友林業株式会社に勤務していたものであるところ、住友林業では、同社に割り当てられた本件クラブへの入会者数を確保するため、総務部の総務課長が中心となり、本件クラブは住友系のゴルフ場として一流コースになるので、将来会員権の値上がりが見込めると説明して、社員に入会勧誘を行ったが、入会希望者が少なく、社員の父親でもよいということになり、控訴人齋藤は、右長男康徳と共に入会したものである。

(5) 控訴人品川は、住友銀行新小岩支店と取引関係があったところ、同支店の支店長前野武から「今度住友銀行や住友クレジットもバックアップするので、必ず良いゴルフ場になる。将来必ず儲かる。」と勧められて、本件クラブに入会したものである。

(6) 控訴人江島は、住友不動産の泉カントリー開発室の職員から、「本件クラブは、鷹之台カンツリー倶楽部の会員権相場と比較して、当然値上がりするし、遜色のないコースになる。」との説明を受けたので、本件クラブに入会したものである。

(7) 通常の預託金会員組織のゴルフクラブにおいては、譲受人の資格要件としては年齢三五歳以上で、クラブ会員二名の紹介を要するとするものが多く、被控訴人が本件クラブの会員募集の際に比較の対象とした鷹之台カンツリー倶楽部においても、譲受人の資格要件を右のとおりに定めている。なお、通常は会則上さらに理事会の承認を要する旨を規定しているものも多いが、その規定は、暴力団関係者や外国人を排除することを目的とした形式的規定にすぎないのであって、これを一定の資格要件とするものではない。

(三) 以上の事実によれば、本件クラブは、当初は一般の預託金会員組織のゴルフクラブを設立する予定で会員を募集したものであることが明らかである。したがって、少なくとも本件会則の制定前に入会した控訴人齋藤、同品川及び同江島は、将来本件クラブにおいては、通常の預託金会員組織のゴルフクラブの場合と同様に、会員権の譲渡及び相続を認める会則が制定されるものと考えて、これを前提条件にして入会契約を締結したものであり、入会後に制定された本件会則の適用を受ける理由はないから、被控訴人は、少なくとも右控訴人らに対しては、控訴の趣旨第二項記載の内容の承認義務を負うことは当然である。

(四) なお、右控訴人ら(後記その余の控訴人らも同じ。)は、いずれも各入会契約に際し、被控訴人から会員権の譲渡等は可能であるとの説明を受けて、そのように認識して被控訴人に対し入会の意思表示をしたものである。したがって、右控訴人らに本件会則を適用することは、入会後に会則の規定を会員の不利益に変更して、会員権の譲渡及び相続の禁止・制限を定め、これを強行することに等しいから、個々の会員の同意なくして本件会則の前記規定を適用することは許されない。

〔被控訴人の主張〕

(一) いずれの預託金会員組織のゴルフクラブであっても、その会則又は規約中で、会員権の譲渡及び相続についてはクラブの理事会又は会社の取締役会などの承認又は同意を要する旨を規定しており、右控訴人らの主張のごとき形式的要件が具備するだけで会員権の譲渡等を認めるものは皆無といってよい。また、預託金会員組織のゴルフクラブにおいて、会員権の譲渡等を認める事例は、いずれも会則又は規約中に譲渡及び相続を認める旨の条項を設けているのであり、会則又は規約を離れて、当然に譲渡及び相続を認める事例が多数あるわけではない。したがって、会員権の譲渡及び相続を認めている事例が他にあることから、右控訴人らの主張のごとき意思解釈の標準となるべき慣習があるということはできない。

(二) 本件クラブは、当初から、住友系企業各社及びその関係者の親睦を図ることを目的として設立されたものであり、会員権の譲渡等を認めないことが当然の前提とされていた。

(1) 当初の個人正会員に係る特別縁故募集の当時には、理事会が未だ構成されていなかったし、本件会則も会員には公開されていなかったが、その募集に際し入会者に配付したパンフレットには、冒頭に会員らは住友系各社に勤務中の役職員並びに先輩の方に限るとして、その入会資格を限定するとともに、そのことにより、本件クラブの基本的性格を明示していたものであり、実際にも、原則としてそのような者のみを募集の対象としていたものである。そして、本件ゴルフ場の建設、造成のための資金は専ら住友不動産から被控訴人に対して融通されており、平成三年三月末までに支出されたゴルフ場への総投資金額は一一〇億三四〇〇万円であるが、そのうち、会員から預かった入会保証金の金額は二八億二九五〇万円に止まり、その余の資金は全て住友不動産が負担している。また、住友グループの各社からも数々の現物給付等による援助を受けている。一方、会員の募集に当たり、住友系企業の各社に募集口数の割当てがなされたことはない。また、住友系企業の各社に対し協力依頼がなされたのは、本件クラブの設立目的が住友系企業各社の役職員及びその関係者の親睦を図ることにあるため、そのような者のみを募集の対象としたことによるものであって、入会希望者が少なかったという理由によるものではない。安藤太郎が本件クラブの会員権の財産的価値について右控訴人らの主張のような内容の発言をしたことはない。また、本件クラブの会員募集に当たり、被控訴人側の募集担当者らが、本件クラブを将来千葉県下の名門である鷹之台カンツリー倶楽部に並ぶゴルフ場にする旨の説明をしたことはあるが、これは同クラブのようなグレードの高いゴルフ場にするということを表明したにすぎないのであって、決して会員権の相場が同クラブ並みに高騰することまでを強調したものではない。

(2) ところで、本件会則の制定前に入会した者については、入会当時入会契約の具体的内容は明らかにされておらず、本件会則に定める会員権の譲渡、相続及びその手続等についての具体的条項も公表されていなかった。しかし、本件クラブの目的、性格は、前記のとおり当初から明示されており、住友系企業のゴルフクラブとするためには、会員資格を限定し、将来に向かってもその方針を維持する必要があり、会員権の自由譲渡、相続などもクラブの性格上許すべきものでないことは、住友不動産及び住友系企業各社の関係者間では予め了解されており、本件会則の制定前に入会した者も、そのことを当然に予測し得たものである。ただ、一部にはそこまで具体的に予測し得なかった者もあることが懸念されたので、第一回理事会において、このような一部の会員に対する救済措置として、入会契約の解約を認め、それらの者に対してはローンの利息相当額以上の金員五〇万円を付加した代金で、会員権を買い上げる措置を認めることにした。そして、これに応じて解約し退会した者は四八名であった。

その後、さらに一部の会員から会員権の買い上げを要望する声があり、また、クラブの運営について当初個人会員本位のカントリークラブ的な運営を期待して入会したのに、オープン後のクラブ運営が住友系企業各社の社交、懇親のためのゴルフクラブたる性格を強め、その結果、例えば月例競技を行わず、会員のハンディキャップの査定をもしないことになり、そのことについて一部の会員の不満の声が大きくなったので、昭和五六年二月一〇日の理事会で、再度、入会預り金三八〇万円で入会した個人正会員についてはそれに一〇〇万円を付加した四八〇万円の代金で会員権を買い上げる措置を実施することを決定し、これを実施した。そして、これに応じて一九八名の会員が退会した。

(3) 入会預り金の支払いのために組まれた住友クレジットのローンについては、被控訴人が住友クレジットに対して連帯保証人となり、本件クラブの会員権は保証義務の存続する間被控訴人の手許に留保したにすぎないのであって、会員権自体を融資の担保として取り扱ったものではない。

(三) 控訴人齋藤、同品川及び江島は、本件会則の制定前に入会契約を締結したものであるが、そのような者であっても、本件ゴルフクラブの会員としての入会契約を締結すれば、その後に制定された会則に従うことは当然のことであり、現に右控訴人らに交付された会員証書にも、会則に従うことが明記されていたから、右控訴人らに対しても本件会則が適用されるべきである。

二  控訴人渡辺及び同保坂について

右控訴人両名は、いずれも本件会則の制定後に、個人正会員の通常募集に応じて、本件クラブの個人正会員となったものであるところ、右控訴人らに本件会則一〇条1項及び2項並びに一一条3項の規定の適用があるか否かが争点である。そして、この争点に関する当事者双方の主張は、次のとおりである。

〔控訴人らの主張〕

(一)(1) 控訴人渡辺は、住友銀行錦糸町支店と取引関係があったところ、同支店の支店長阿部寿から、本件クラブは、住友不動産がバックで鷹之台カンツリー倶楽部並みにするし、藤ケ谷カントリーよりよくなる、自分も入会しているし、住友不動産がやる事を信用しなさいとの説明を受けたので、当初予定していた藤ケ谷カントリークラブの会員権の購入を止めて、本件クラブに入会したものである。

(2) 控訴人保坂は、住友銀行錦糸町支店と取引関係があったところ、同支店の取引先の会が行ったゴルフコンペのパーティの席上で、同支店の支店長阿部寿から、本件クラブは、住友不動産の直営であり、住友銀行をはじめ住友系企業のバックアップで、近隣の鷹之台カンツリー倶楽部に勝るとも劣らない一流のカントリークラブに間違いなくなるとの説明を受けて、本件クラブに入会したものである。

(3) 右控訴人らは、いずれも入会に際し、会員権の譲渡等の禁止又は制限の話を受けたことは一切なく、その募集事項にもその旨の記載はなかった。また、本件会則の内容の説明も受けておらず、本件会則の交付も受けていなかった。

(二) 以上の事実によれば、右控訴人らは、本件会則の制定後に入会したものではあるが、入会の際に本件会則の規定を承認して入会したものではなく、控訴人齋藤、同品川及び同江島の場合と同じく、通常の預託金会員制のゴルフ場の場合と同様に会員権の譲渡及び相続が認められることを前提条件にして入会契約を締結したものであるから、入会契約の意思解釈としては、被控訴人に前記の承認義務があるものと解すべきである。

〔被控訴人の主張〕

控訴人渡辺及び同保坂は、本件会則の制定後に入会契約を締結したものであるから、本件会則の規定の適用を受けることは当然である。

三  控訴人猪狩及び同井上について

右控訴人両名は、いずれも本件会則の制定後に個人平日会員の募集に応じて本件クラブの個人平日会員となったものであるところ、右控訴人らに本件会則一〇条2項及び3項並びに一一条3項の規定の適用があるか否かが争点である。そして、この争点に関する当事者双方の主張は、次のとおりである。

〔控訴人らの主張〕

(一)(1) 被控訴人は、平日会員を募集するにあたって、その会員を住友グループの関係者に限定せず、一般からも募集したものであり、募集要項にも、住友グループの特殊なゴルフ場であることを窺わせる記載はなかった。しかも、右募集要項では、会員権についてはクラブの斡旋により譲渡可能ですと明示されていた。

(2) 控訴人猪狩は、住友銀行錦糸町支店と取引関係があったところ、同支店の取引先の会が行ったゴルフコンペの席上で、当時住友不動産の専務取締役であった村上から「本件クラブは、近隣の鷹之台カンツリー倶楽部に勝るとも劣らないコースになる」との説明を受けて入会したものであるが、その際、本件クラブの斡旋によってのみ譲渡ができる旨の説明はなされていない。また、被控訴人は、右控訴人に対し、本件会則の内容を知らせていないし、本件会則の交付もしていない。したがって、右控訴人は、本件会則が未だ制定されていないことを前提にして入会したものである。

(3) 控訴人井上は、住友銀行船橋支店と取引関係があったところ、同支店の支店長岡本英男から「本件クラブは、鷹之台カンツリー倶楽部のような超名門コースになる。会員権の譲渡はできる。」との説明を受けて入会したものである。しかも、被控訴人は、右控訴人に対し、本件会則の内容を知らせていないし、本件会則の交付もしていない。したがって、右控訴人は、本件会則が未だ制定されていないことを前提にして入会したものである。

(二) 右控訴人らは、本件会則の制定後に入会したものではあるが、入会に際しては相続ができない旨を知らされていないし、本件会則の交付も受けていないから、会員権の相続ができない旨の本件会則の規定の適用はない。次に、会員権の譲渡については、原則として自由と解すべきであり、ただ、クラブに好ましからざる人物の入会を防ぐ趣旨でクラブが売買の仲介をする形式を採ったにすぎないものであるから、平日会員権の譲渡の斡旋については、理事会に自由裁量権はなく、その譲渡価格は譲渡人と譲受人との協議で自由に定め得るものであり、ただその譲受人の入会を認めるのが相当であるか否かの審査を行うという意味でのみ被控訴人の仲介を経由することを要するとしたにすぎないものというべきである。しかるに、被控訴人は、平日会員権の譲渡に関する本件会則一〇条三項の解釈を誤り、被控訴人には譲渡の斡旋義務はないとし、譲渡価格については、本件会則の明示の規定がないにもかかわらず募集価格の二五〇万円でしか売買の斡旋をしないと言明して、これを強行しようとしている。このように、実質的に会員権の譲渡性を奪うに等しいような承認拒絶ないし仲介拒絶をすることは許されないから、被控訴人は、平日会員である右控訴人らに対しても、同人ら主張の承認義務を負うものというべきである。

〔被控訴人の主張〕

控訴人猪狩及び同井上も、本件会則の制定後に入会契約を締結したものであるから、本件会則の規定の適用を受けることは当然である。

第三証拠関係《省略》

第四争点に対する判断

一  控訴人齋藤、同品川及び同江島について

1  まず、右控訴人らは、本件クラブのごとき預託金会員組織のゴルフクラブにあっては、入会契約締結時に譲渡及び相続を禁止又は制限する旨の特約やその旨の会則等がなかった場合には、その譲渡及び相続を認めるのが一般的な慣習であり、そして、これは本件クラブについても同様であると主張する。

そこで、判断するに、当裁判所に顕著な事実及び《証拠省略》によれば、預託金会員組織のゴルフクラブのうちの、かなりの数のゴルフクラブにおいては、会員権の自由譲渡が認められ、譲受人が所定の名義書換料をゴルフクラブに支払えば、その譲渡が承認される事例も多いこと、そして、そのようなゴルフクラブでは会員権の相続も認められるのが通常であることが認められる。しかしながら、《証拠省略》によれば、会員権の譲渡及び相続を禁止又は制限しているゴルフクラブも少なからず存在していることが認められる。そして本件の全証拠を検討しても、当該ゴルフクラブへの入会契約や会則で会員権の自由譲渡等を認める旨の定めがなくても、その譲渡及び相続を禁止ないし制限する旨の特約や会則が存在しない限り、預託金会員組織のゴルフクラブの会員権であるということだけから当然にその会員権の譲渡及び相続を認めることが一般的な慣習として確立されているとまで認定するに足りる証拠はない。したがって、右控訴人らの右主張は採用することができない。

2  そこで、次に控訴人齋藤、同品川及び同江島に対して、同人らが本件クラブへの各入会後に制定された本件会則一〇条1項及び2項並びに一一条3項の規定の適用があるか否かについて検討する。

まず、ゴルフクラブへの入会契約とゴルフクラブの会則との関係について考えるに、前記第二の一1で認定した事実によれば、本件クラブは、いわゆる預託金会員組織のゴルフクラブであって、ゴルフ場を経営する被控訴人とは独立した権利義務の主体となるべき社団としての実体を有しないことは明らかであるから、本件クラブの組織や運営に関する事項は、ゴルフ場を経営する被控訴人の意向に従って定められるべきものであり、かつ、その内容は、強行法規や公序良俗の原則等に反しない限り、自由に定め得るものである。したがって、本件クラブへの入会者の入会資格や会員権の譲渡及び相続に関する事項も、本件クラブの入会希望者と被控訴人との間で締結される入会契約によっていか様にも定めることができるのである。しかし、反面、本件クラブのような多数の会員が長期間にわたって組織するゴルフクラブの組織や運営に関する事項は、多数の会員につき相当期間にわたり画一的かつ継続的に定められる必要があるから、その具体的内容は、ゴルフ場の経営者又はその委任を受けたゴルフクラブの理事会等が制定する会則(定款、規則その他の名称によるものを含む。以下同じ。)によって定められるのが通常である。そして、このようにして制定された会則の規定は、ゴルフクラブの入会契約の締結にあたっては、多数の入会者に画一的に適用される定型的契約条項(約款)としての性質を有するものと解すべきである。そこで、本件クラブのようなゴルフクラブへの入会契約締結の際に、既に会則が制定されていた場合には、その会則の規定は、入会契約等で特段の反対の意思表示がなされない限り、当然に入会契約を締結した会員とゴルフクラブの経営者との間の契約上の権利義務の内容を構成するものというべきである。また、入会契約締結の際には未だ会則が制定されておらず、その内容も確定していないが、将来会則の制定されることが予定されており、入会者も将来会則が制定されたときにはそれに従うことを承諾していた場合においては、その後に制定された会則規定の内容の一部に入会者の当初の予想に反する部分があったときであっても、その内容が入会契約で具体的に定められた契約内容に積極的に反するものではなく、しかも、右会則の制定後、入会者がその規定の内容を知りながら、これに異議を述べることもなく、相当期間にわたりゴルフクラブの会員として振る舞っていた場合には、入会者がその会則規定に従うことを承認したものとして、前記の場合と同様、その会則の規定は、入会契約を締結した会員とゴルフクラブの経営者との間の契約上の権利義務の内容を構成するものと解するのが相当である。

3(一)  そこで、控訴人齋藤、同品川及び同江島の本件クラブへの各入会の経緯及び同入会後の本件クラブとの関係等についてみるに、前記第二の一の事実と《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。

(1) 昭和五三年一月から開始された本件クラブの個人正会員の特別縁故募集の募集パンフレットには、会員は住友系各社に勤務中の役・職員並びに先輩の方に限るとの記載があったが、それにもかかわらず、被控訴人及び右会員の募集を委託された住友不動産は、右に記載された役職員等以外の者であっても、控訴人齋藤、同品川及び同江島のような住友銀行等の取引先関係者であれば、右会員の募集に応じて、入会することを認めていた。また、右パンフレットには、住友不動産が責任をもって創設する格調高いゴルフ場であるとの記載はあったが、本件クラブが特に住友系企業各社及びその関係者の親睦を図るためのみのゴルフ場であることを窺わせる記載や、会員権の譲渡や相続を禁止又は制限する旨の記載はなく、却って近隣の鷹之台カンツリー倶楽部の会員権の時価相場を記載するとともに、同倶楽部との交通手段を比較した説明もなされていた。

また、昭和五四年の開場前に作成された本件クラブの説明パンフレットを見ても、本件クラブのゴルフ場が住友系企業各社及びその関係者のみの親睦を図ることを目的とするゴルフ場であることを窺わせる記載はなく、むしろ「募集を開始したこの機会に、ぜひ選ばれた方々だけの品格あふれたカントリー・ライフをご予約ください。」などという、広く一般の者の入会を認めるかのごとき記載もあった。

そして、右募集に関与した住友不動産又は住友系各社からは、入会者に対し、会員権の譲渡及び相続を禁止又は制限している旨の説明はなされておらず、控訴人齋藤、同品川及び同江島も、入会当時、そのような説明は全く受けていなかった。

(2) そのころ、住友商事が海外に駐在する社員に対して出した本件クラブの特別縁故会員募集の案内には、募集会員は六〇〇名、会員総数は法人・平日会員を含め一五〇〇名を予定との記載があった。そして、一般のゴルフクラブにおいては一八ホール当たりの会員数一五〇〇名程度が適正会員数とされているが、一八ホールのゴルフ場を運営する本件クラブにおいては、昭和五四年の開場後の会員数は、最大の場合でも正会員八四三名(個人正会員六〇五名、法人会員二三八名)、平日会員一四〇名程度であったし、現在でも正会員五五〇名、平日会員一一〇名である。

(3) 本件会則を制定した本件クラブの昭和五四年五月七日の第一回理事会においては、個人正会員権の譲渡等を禁止したことに伴う会員権の買上げ措置についてその買上げ金額を決定する際、募集当時は譲渡等が禁止になるとは思わずに入会を勧めた経緯もあり、その後状況が変ったと考える会員もいると思われるので、四〇万円ないし五〇万円の配慮が必要であるとの意見が示され、その結果、その金額を四三〇万円とすることが決定された。そして、右決定に基づく個人正会員の会員権買い上げの通知書には、「同理事会で本倶楽部は、出来るだけ『住友のゴルフ場』としての性格を将来にわたって維持することになり、従って個人正会員の会員権自由譲渡は一切これを認めず倶楽部に於て都度買上げを行うことになりました。つきましては、上記により会員権の譲渡に制限がつくことになり、先に自由譲渡が可能であるとお考えになってご入会された方々にご迷惑をおかけすることになりますので、この際下記により会員権の買上げを実施することにいたしました。この度の措置について深くお詫び申し上げますと共に何卒事情ご諒察の上」などとの記載がなされている。

(4) 昭和五六年二月一〇日に開催された本件クラブの理事会でも、住友不動産の安藤社長は、個人会員の中には会員権の譲渡を禁止したことや、週末にはなかなかスタートがとれないことなどによる不満もあると聞いている、他方、開場以来殆ど来場されないスリーピング・メンバーも二〇〇名程度おられる。今回限りということで会員権を四六〇万円ないし四八〇万円で買い上げる方向で、現在の個人会員の不満やスリーピング・メンバーの問題に決着をつけたい、勧誘時に自分から説明した条件がその後変更となり、その点を突かれると一言もなく、申し訳ないなどと発言している。そして、右理事会の決定に基づく個人正会員の買上げの通知書にも、「さて既にご高承の通り、『住友ゴルフ場』としての性格を貫くため個人会員権の譲渡禁止のやむなきに至りましたことは、さきに(昭和五四年五月七日)事情ご説明旁々ご通知申し上げたところでありますが、倶楽部の性格が当初会員募集時と基本的に変わったことでもありますので、一層充分なるご理解とご周知を期し、」などとの記載がなされている。

(5) 控訴人齋藤は、本件クラブへの入会を勧められた際、鷹之台カンツリー倶楽部と同程度のゴルフ場にすると言われた。

(6) 控訴人品川は、同人の経営する会社の取引銀行である住友銀行新小岩支店の当時の支店長であった前野武から、本件クラブへの入会を勧められた際、鷹之台カンツリー倶楽部と同程度のグレードの高いゴルフ場になると言われた。

(7) 控訴人江島は、本件クラブへの入会を勧められた際、鷹之台カンツリー倶楽部と比較して遜色のないコースにすると言われた。

(8) しかし、右控訴人らは、同人らの各入会契約の締結に際し、被控訴人との間で、会員権の譲渡等については格別の具体的な合意をしなかった。また、右控訴人らは、各入会契約締結の当時、将来本件クラブの会則が制定されることは予想していたが、その内容については被控訴人又は本件クラブへの入会の勧誘者に確認することをしなかった。

(9) 本件会則が制定されたのは、前記認定のとおり、右控訴人らの各入会契約締結後の昭和五四年五月七日であるが、右控訴人らが本件クラブへの各入会の際に提出した入会申込書には、いずれも「泉カントリー倶楽部正会員(個人・法人)として入会致したく会則承諾の上申し込みます。」との記載がなされており、また、右控訴人らが各入会後に本件クラブから受領した会員証書にも、「会員権の取扱いは泉カントリー倶楽部理事会会則第一〇条のとおりとなります。」との記載がなされていた。しかし、右各入会の当時、右控訴人らがこれらの記載について被控訴人に異議を申し述べるなどのことは全くしなかった。そして、その後昭和五四年五月七日に本件会則が制定され、その内容が明らかになった後においても、右控訴人らは、同会則の規定が同人らに適用されることについて被控訴人に異議を述べるなどの申し出はしなかった。

(10) 右控訴人らは、昭和五八年に結成された「泉カントリークラブ・メンバーの会」(以下「メンバーの会」という。)の会員であり、控訴人齋藤はその会長、控訴人品川及び同江島はその副会長となっていたものであるが、メンバーの会は、昭和五九年五月ころに被控訴人に対し、メンバータイムの創設、個人会員のスタートの予約受付の改正、月例競技会の新設、会員名簿の公表等、クラブの運営内容の改善に関する要望事項を提出し、同年八月ころには、会員権の譲渡禁止については理事会の決議がなされた旨報知されたが、会員権の相続規定が全く不明であることなどを右要望事項に加え、さらに同年一一月ころには、会員権の譲渡及び相続の禁止又は制限に関する会則規定の変更を求める要望事項をも提出した。これらの要望事項に対し、被控訴人は、昭和六〇年一月三一日に、事務担当者である前野武の名前で、右会則の変更を求める要望については全く譲歩できない旨回答するとともに、個人正会員のメンバータイムの設定、個人正会員のためのクラブ競技の開催、個人正会員の年会費支払いの義務の免除等の便宜を図ることを提案し、そのとおりに実施した。しかしながら、メンバーの会は、昭和六一年八月ころ被控訴人との間で行われた交渉の際にも、右会員権の譲渡に関する問題を再度主張して、一部の正会員の会員権の買上げを要求したが、被控訴人がこれを拒否したため、控訴人らは、本件訴えを提起するに至った。

以上の事実を認めることができる。

なお、右控訴人らは、個人正会員の特別縁故募集に際しては、住友不動産の安藤太郎社長が本件クラブの会員権の財産的価値を鷹之台カンツリー倶楽部並みにすると発言し、住友系各社で募集に関与した者も本件クラブの会員権は値上がりが見込めると説明したと主張しており、《証拠省略》中にも、これにそう記載又は供述部分がある。しかしながら、《証拠省略》を総合して考えると、右会員募集に際して、安藤太郎らが本件クラブを鷹之台カンツリー倶楽部に劣らない立派なゴルフ場にする趣旨の発言をしたことは認められるものの、それ以上に、本件クラブの会員権の財産的価値にまで言及して勧誘したことは認めることができないから、右記載及び供述部分はそのとおりには採用することができない。また、右控訴人らは、入会者に対して斡旋された住友クレジットの低利融資の際、住友クレジットは、会員権自体を融資の担保として取得したと主張しており、《証拠省略》によれば、右融資を受けた右控訴人らは被控訴人に担保差入証を提出していることが認められる。しかし、右担保差入証の記載内容は明らかではないのみならず、《証拠省略》によれば、住友クレジットが、右ローン契約の締結にあたり、被控訴人及び住友不動産を連帯保証人にするとともに、被控訴人から、担保として融資金相当額の金員の預託を受けていることは認められるものの、右控訴人らから同人らの会員権自体を担保として取得していることまでは認めることができない。

(二) 以上に認定した事実、特に(一)の(3)及び(4)の事実からすれば、本件会則の制定前と制定後においては、被控訴人の予定していた本件クラブの性格、したがって、被控訴人側における会員権の譲渡及び相続についての取扱い方針が基本的に変化したことが認められるのであって、本件会則の制定前においては、被控訴人が、本件会則一〇条及び一一条の規定のとおりに会員権の譲渡及び相続を禁止又は制限することを前提条件として、個人正会員の特別縁故募集をなし、その結果、右控訴人らも、当初から右会則の規定どおりの内容の各入会契約を締結したものと認めることは困難である。なお、《証拠省略》中には、本件クラブは設立当初から住友グループのゴルフ場として企画されており、その趣旨を貫くために、会員権の譲渡等を禁止又は制限することを当然の前提条件として会員の募集をした、昭和五四年五月及び昭和五六年二月にそれぞれ実施された個人正会員の会員権の買上げの措置も、会員権の譲渡及び相続に関する被控訴人の取扱い方針が変更されたからではなく、本件クラブの性格が法人会員中心のゴルフクラブに変更されたことによるものであり、甲三、四号証の前記記載も、その趣旨でなされたものにすぎないとの記載又は供述部分があるけれども、これらの記載又は供述部分は、前掲各証拠に照らして不自然であり、そのとおりには採用することができない。

(三) しかしながら、前記の認定によれば、控訴人齋藤、同品川及び同江島は、いずれも本件クラブへの各入会契約の締結に際し、被控訴人との間で、会員権の譲渡及び相続について格別の具体的な合意をしていないことも明らかである。のみならず、前記(一)の(8)及び(9)で認定した事実によれば、右控訴人らは、いずれも本件クラブへの入会の際、将来同クラブの会則が制定されることを予想し、その会則を承諾する旨の記載のある入会申込書を被控訴人に提出していることが認められる反面、本件の全証拠によっても、その後本件会則が制定され、同一〇条及び一一条の規定内容が明らかになった後においても、右控訴人らは、昭和五九年にメンバーの会の要望事項として本件会則規定の変更を求める要望事項を提出するに至るまでの五年余の間、被控訴人に対し右控訴人らについては右会則の規定の適用を排除すべき旨の特段の意思表示をしたなどの事実は認められない。そして、本件の全証拠によっても、本件会則の制定前に本件クラブに入会したその他の個人正会員において、その各入会契約の締結にあたり又はその後に、被控訴人との間で、会員権の譲渡及び相続について本件会則の内容と異なる何らかの具体的な特約をしている者も見当たらない。

(四) のみならず、右(一)で認定した事実に、前記第二の一9で認定したとおり、右控訴人らは、本件会則が制定され、その規定内容が明らかになった後においても、昭和五四年五月以降及び昭和五六年二月以降に実施された会員権の買い上げ措置にも応ぜず、現在に至るまでそれぞれの会員権を保有し、本件クラブの個人正会員として行動していること、前記(一)の(9)で認定したとおり、右控訴人らは、右二度にわたる会員権の買上げ措置の実施の当時又はその後においても、被控訴人に対し、本件会則一〇条及び一一条の制定ないし適用に反対するなどの特段の意思表示をしていないこと、更に、前記一の(10)で認定したとおり、右控訴人らは、昭和五九年に前記メンバーの会の会長又は副会長として被控訴人と交渉した際にも、当初は会員権の譲渡及び相続に関する禁止又は制限の問題は取り上げておらず、その後にこれを取り上げた際にも、単に会則規定の変更を要望したに止まり、右控訴人らに対してはその規定の適用を排除すべきことや、右控訴人らの有する会員権について同人らが本訴で主張しているような内容の承認義務があることなどの主張は全くしていないことなどを総合すれば、右控訴人らは、本件会則が制定され、その規定内容が明らかになった後において、同会則一〇条1項及び2項並びに一一条3項の規定が右控訴人らに適用されてもやむを得ないことを少なくとも黙示に承認したものと認めるのが相当である。

4  そうすると、本件会則一〇条及び一一条の規定は、右控訴人らと被控訴人との間の各入会契約上の権利義務の内容を構成するに至ったものというべきである。したがって、右控訴人らは、その会員権の譲渡及び相続について右会則の規定の適用を免れ得ないから、右控訴人において、その主張するとおりの要件、すなわち、①各控訴人から、年齢満三五年以上にして本件クラブの会員二名の紹介を受けた者に対する譲渡、②各控訴人について相続が発生したときは、その各相続人のうちから選定した一名の者に対する承継という、各要件を具備したとしても、そのことだけでは、被控訴人が当然に右の譲渡又は相続を承認すべき義務を負うものと解することができないことは明らかである。

5  以上のとおりであって、控訴人齋藤、同品川及び同江島の本件各請求は理由がない。

二  控訴人渡辺及び同保坂について

1  前記第二の一3で認定したとおり、本件会則は昭和五四年五月七日に制定されたが、《証拠省略》によれば、昭和五四年五月から実施された個人正会員の通常募集の募集要項には、本件会則の一〇条及び一一条の規定の説明は全くなされていなかったこと、控訴人渡辺は、住友不動産の村上専務から、本件クラブは住友グループが総意を尽くして造成するから安心して入会してくれとの勧誘を受けて、昭和五四年九月三〇日に入会したこと、その際、会員権の譲渡に関する話は全くされていなかったこと、同年一一月ころに同控訴人に会員証書が送付されたが、その会員証書には、「会員権の取扱いは泉カントリー倶楽部理事会会則第一〇条のとおりとなります。」との記載がなされており、同控訴人もこの記載を認識していたが、被控訴人又は住友不動産から同控訴人に対し本件会則の送付はなされていなかったことを認めることができる。そして、弁論の全趣旨を総合すると、同年一二月六日に入会した控訴人保坂の入会契約締結の経緯も、控訴人渡辺の場合とほぼ同様であったと推認することができる。そして、以上の事実によれば、右控訴人らは、いずれも本件会則が制定された後に本件クラブに入会したものであるところ、被控訴人が右控訴人らの各入会契約の締結に際し、本件会則を同人らに提示したり、送付したりしてはいないから、右控訴人らが本件会則第一〇条及び一一条の規定内容を明示に承認して各入会契約を締結したものであるか否かについては多少の疑問が残る。

2  しかしながら、入会契約締結の際に既に会則が制定されていた場合には、入会契約等で特段の反対の意思表示がなされない限り、その会則の規定が当然に入会会員とゴルフクラブの経営者との間の契約上の権利義務の内容を構成することは、前記一の2で述べたとおりであるから、被控訴人が本件会則規定の存在ないし内容を特に秘匿して右控訴人らに入会契約を締結させたり、右控訴人らが入会契約締結の際に特段の反対の意思表示をしたりしたなどの特段の事情がない限り(本件においては、そのような特段の事情が存在したことを認めるに足りる証拠はない。)、右各入会契約を締結した右控訴人らが本件会則の規定の適用を受けるのは当然であるから、控訴人齋藤、同品川及び同江島の場合と同じく、右控訴人らについても、被控訴人が同控訴人らの会員権の譲渡及び相続について右控訴人らの主張するような内容の承認義務を負うと解する余地はないものというべきである。

3  よって、控訴人渡辺及び同保坂の本件各請求は理由がない。

三  控訴人猪狩及び同井上について

1  《証拠省略》によれば、控訴人猪狩は、昭和五四年八月ころ住友不動産の村上専務から、本件クラブの近隣にある名門の鷹之台カンツリー倶楽部よりもよいゴルフ場を造るから入ってくれとの勧誘を受けて、同年一一月八日に本件クラブに入会したこと、同控訴人はそのころ会員証書の送付を受けたが、その会員証書には、「この証書は理事会の承認を得て、倶楽部の斡旋する者に譲渡することができます。」との記載がなされていたこと、控訴人猪狩もそのころこれを読んでいること、しかし、同控訴人は、被控訴人から本件会則の提示、交付やその説明を受けたことはないことを認めることができる。そして、弁論の全趣旨を総合すると、同年八月一三日に入会した控訴人井上の入会契約締結の経緯も、控訴人猪狩の場合とほぼ同様であったと推認することができる。

2  ところで、右控訴人らの右各入会時には既に制定されていた本件会則一〇条三項には、前記認定のとおり、「平日会員は倶楽部の斡旋によりその会員権を他に譲渡することができる。ただし、譲渡については、理事会の承認を必要とする。」と規定されている。そこで、被控訴人は、右控訴人らのごとき平日会員から会員権譲渡の斡旋の申し出があったときには、その会員に対し譲渡の斡旋をなすべき義務を負うものであるが、しかし、右規定の趣旨からすれば、右申し出に対する譲渡の斡旋及び理事会の承認の内容については、原則として理事会の自由裁量に委ねられているものと解すべきであり、ただ例外的に、その会員の入会契約締結時における資格審査の方法・内容、預託金の返遷時期、従前の承認事例の内容、その他諸般の事情を総合考慮して、その拒絶が信義則に違反すると認められるような場合に限り、自由裁量の範囲が制限されるにすぎないものと解するのが相当である。したがって、右控訴人らの主張するごとく、平日会員権の譲渡は原則として自由であって、ただクラブに好ましからざる人物の入会を防ぐ趣旨でクラブが売買を仲介する形式を採ったにすぎないものであるから、平日会員権の譲渡の斡旋については、理事会に自由裁量権はなく、その譲渡価格は譲渡人と譲受人との協議で自由に定め得るものであり、ただその譲受人の入会を認めるのが相当であるか否かの審査を行うという意味でのみ被控訴人の仲介を経由することを要するとしたにすぎないという見解は到底採用することができない。却って、右控訴人らが本件クラブに入会した際には既に本件会則が制定されており、平日会員の募集要項にも同会則一〇条三項の規定とほぼ同旨の記載がなされていたところ、右控訴人らは、これを承認したうえ、本件クラブに入会したものであるから、右控訴人らは、本件会則一〇条三項の規定がそのとおりに適用されることを承認して入会したものということができる。そうすると、被控訴人が、平日会員である右控訴人らに対して、その会員権の譲渡について右控訴人らの主張するような内容の承認義務を負うものと解し得ないことは明らかである。なお、右控訴人らは、被控訴人が、会員権譲渡の斡旋義務を否定し、譲渡価格については本件会則に明示の規定がないにもかかわらず、募集価格の二五〇万円でしか売買の斡旋をしないと言明して、これを強行しようとしていると主張するが、右主張内容を確認するに足りる具体的な証拠は存在しないのみならず、右主張は、譲渡の斡旋ないしその価格に関するものであって、特定の譲受人に対する譲渡の承認義務の存否を問題にしている本件請求とは直接の関連性がないから、右主張自体失当であるといわざるを得ない。

3  次に、平日会員権の相続については、前記認定のとおり、本件会則一〇条二項に「会員権は相続できないものとする。」との規定があり、さらに同一一条三項に「会員は死亡の場合その資格を失う。」との規定があるところ、これらの「会員権」又は「会員」の中に平日会員権又は平日会員も含まれることは、右規定の仕方ないし表現からみて明らかであるから、被控訴人が右控訴人らの会員権の相続についてこれを承認しなければならない義務を負う理由はないというべきである。もっとも、前記の認定事実によれば、右控訴人らは、本件クラブの各入会に際し、本件会則の提示や交付を受けていないから、右控訴人らが本件会則一〇条二項及び一一条三項の規定内容を明示に承認して各入会契約を締結したかについては疑問がないわけではない。しかしながら、前記二の2で述べたとおり、被控訴人が本件会則規定の存在ないし内容を特に秘匿して右控訴人らに入会契約を締結させたり、右控訴人らが入会契約締結の際に特段の反対の意思表示をしたりしたなどの特段の事情がない限り(本件においては、そのような特段の事情が存在したことを認めるに足りる証拠はない。)、右各入会契約を締結した右控訴人らが本件会則の適用を受けることは当然であるから、控訴人渡辺及び同保坂の場合と同様、被控訴人が右控訴人らの相続について右控訴人らの主張するとおりの内容の承認義務を負うと解する余地のないことは明らかである。

4  よって、控訴人猪狩及び同井上の本件各請求も理由がない。

四  結論

以上の次第であって、控訴人らの本件各請求はいずれも理由がないから、これを棄却すべきである。よって、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥村長生 裁判官 渡邉等 富田善範)

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